コロナワクチンについて、接種を勧めることと、不安に耳を傾けることは、どちらか一つしか選べないのでしょうか。私は、その二つを切り離したくありません。
私の立場は、高齢者の重症化予防を重視し、副反応や健康被害を軽く扱わず、接種を強制せずに本人の判断を支えることです。
政府のコロナ対策分科会で会長を務めた尾身茂さんの発言も、この問題を考えるきっかけの一つです。泉大津市長・南出賢一さんの発信とともに、どちらの側につくかではなく、内容と根拠を確かめたうえで、私自身の関わりを考えたいと思います。
尾身さんの発言から考える、説明する側の責任
尾身さんは2025年9月公開の対談で、同年6月のテレビ番組での発言について、重症化予防効果はある一方、感染予防効果は時間とともに下がるという趣旨だったと説明しています。私は、この説明を「ワクチンには意味がなかったと認めた」と受け取るのは適切ではないと考えます。
国内外の研究でも、新型コロナによる入院や死亡などを減らす効果が報告されています(厚生労働省「有効性・安全性について」)。高齢者の接種を検討するとき、感染を完全に防げるかどうかだけで判断したくありません。
ただ、説明する側には「正しいことを言った」で終わらせない責任があると思います。期待できる効果だけでなく、限界や不確かさも伝わっていたか。説明を見直すなら、何が分かり、なぜ変わったのかまで話してほしいのです。
これは尾身さんだけに求めることではありません。私自身も、説明したつもりで相手の疑問を置き去りにしていないか、問い直したいと感じます。

泉大津市長の問題提起に、共感することと慎重に考えること
南出市長は2026年9月30日の公式動画で、接種後の不調を訴える人への支援や、副反応疑い報告のあり方について問題提起しています(泉大津市公式動画)。苦痛を訴える人を取り残さず、相談や検証につなげるという姿勢に、私は共感します。
動画では、市の調査で最終接種から14日以内に亡くなった人が58人いたと説明する一方、それだけで接種が原因だったという意味ではないとも述べています(泉大津市公式動画・冒頭の調査説明)。この数字は、市長が紹介した調査結果であり、私が個別の死因を確認したものではありません。
私なら、接種した人全体の人数、年齢や持病、観察期間、条件の近い比較対象を確かめないまま、「接種で死亡が増えた」とは判断しません。報告制度を検証する必要性と、死亡の原因が確定したという話は、分けて考えたいです。
また、健康被害救済制度は、厳密な医学的因果関係の証明までは求めず、接種によることを否定できない場合も対象にする考え方です(厚生労働省「新型コロナワクチンQ&A」)。救済の認定を軽んじたくありませんが、認定件数をそのまま製品の危険度の比較に使うことにも慎重でありたいと思います。
相談支援への共感と、市長の医学的な主張すべてへの同意は別です。私は、誰の発信であっても、問題提起と証明されたことを区別して受け止めたいと考えています。

不調を受け止めることと、原因を決めつけないこと
ワクチンには、まれに重いアレルギー反応であるアナフィラキシーが起こり、mRNAワクチンでは心臓の筋肉や周囲の膜に炎症が起こる心筋炎・心膜炎も重大な副反応として挙げられています(厚生労働省「新型コロナワクチンQ&A」)。「安全性を確認している」を「不調が起きるはずがない」に置き換えたくありません。
接種前後に私が見たいのは、体温、食事や水分の摂取状況、眠り、活動の様子です。体温は体の熱の状態を、摂取量は食べたり飲んだりした量を示しますが、それだけで本人のつらさを分かったつもりにはなりたくありません。
普段と何が違うのか。測定条件はどうだったか。痛みやだるさは、いつからあるのか。本人の言葉と観察を、介護職などとも共有して医師への相談につなげたいです。
原因がすぐに分からなくても、苦痛への対応を後回しにしたくありません。何でも副反応と決めつけることも、最初から関係ないと片づけることも避けたいと考えています。

接種を勧めることと、意思を飛び越えることは違う
厚生労働省は、接種は強制ではなく本人の意思に基づくものであり、接種していない人を差別的に扱わないよう示しています(厚生労働省「新型コロナワクチンQ&A」)。私も、医学的な理由を説明することと、断りにくい空気をつくることを同じにしたくありません。
意思決定支援とは、本人が考え、選べるように情報や対話を整えることです。私は「受けますか」だけでなく、何が心配で、どこが分かりにくいのかも聞きたいと思います。
家族と相談する場面でも、「家族が希望したから」で話を終えたくありません。言葉で意思を伝えることが難しい方にも、理解しやすい説明を試み、表情や拒むしぐさ、これまでの希望を含めて、関係する専門職と慎重に考えたいです。
私は、本人の意思を確認する手間を省きたくありません。予定どおりに進めることだけを優先する関わりには慣れたくないのです。
自分の選択を、相手の答えにしない
私自身が接種するかどうかを、入居者の方への説明の根拠にはしません。持病や体調、過去の接種後の反応などを確認し、接種の可否や注意点を医師に相談することが必要です(厚生労働省「新型コロナワクチンQ&A」)。
「私は打つから」「私は打たないから」で、相手の答えを決めたくありません。不安を否定せず、情報の確かさは一緒に確かめる関わりを目指したいです。

どちらを選んでも、相談できる関係でいたい
分からないことには、すぐに答えを出さず、確認する時間をいただきたいです。新しい根拠が出れば、考え方や説明を見直すことも必要だと考えています。
私が守りたいのは、接種への賛否ではなく、その方の健康と、意思を置き去りにしない関わりです。どちらを選んだ後も、不調や迷いを話してもらえる看護師でありたいと思っています。

注意書き
「この記事は一般的な情報と筆者の経験をまとめたものです。
個別の対応は状態や背景によって異なるため、主治医や関係する専門職、
所属施設の手順に相談してください。」
本記事は筆者個人の考えであり、所属施設の公式方針を示すものではありません。個別の接種判断は、かかりつけ医や接種を担当する医師に相談してください。


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