「生産性向上」という言葉を、介護の現場でよく聞くようになりました。
見守りの機器、インカム(職員同士が無線で連絡を取り合う機器)、記録のソフト。仕事を少しでも楽にするための道具は増えています。
半年後に始まること

ただ、道具が増えるたびに、私は一つのことを考えます。そこで生まれた時間は、いったい誰のところへ行くのだろう、ということです。
報道によると、2024年度の介護報酬改定で、施設系、居住系、短期入所系、多機能系のサービスに、生産性向上のための委員会の設置が求められることになりました。今は努力義務で、2027年4月から義務になるとされています。
この委員会は、利用者の安全とケアの質の確保、そして職員の負担軽減について検討する場とされています。
特養も施設系サービスにあたるため、この流れの中にあります。
私が言いたいこと

私が大事だと思うのは、効率化で生まれた時間を、利用者のケアに戻せるかどうかです。
委員会を作ること自体が目的になってしまうと、議論は「何分短くなったか」で終わってしまうかもしれません。
私は、生産性向上を、時間を削る話としてだけで終わらせたくありません。
委員会の目的に「ケアの質」と「職員の負担軽減」が一緒に書かれていることには、意味があると思います。どちらか片方だけでは、この仕組みは成り立たないはずです。
算定率という数字が教えてくれること
報道では、2026年4月サービス提供分で、生産性向上推進体制加算の算定率は加算IIが36.2%、加算Iが4.7%でした。
加算とは、一定の取り組みや体制を満たした事業所に、介護報酬が上乗せされる仕組みのことです。
この数字は、制度として取り組みを進めている事業所がどれくらいあるかを示す目安になります。
一方で、この数字からは分からないこともあります。
加算を取っているかどうかと、利用者にとって過ごしやすい施設かどうかは、同じではありません。加算を取っていなくても、工夫を重ねている現場もあるでしょう。逆に、加算の要件を満たしても、生まれた時間が別の業務で埋まっている場合もあるかもしれません。
算定率は、取り組みの広がりを知るための数字です。ケアの中身を測る数字ではない、と私は考えています。

「浮いた時間」を見るための視点
では、時間が本当に利用者に戻っているかを、どう見ればよいのでしょうか。
正解があるわけではありません。それでも、私は次のようなことを見ていたいと思っています。
- 本人に説明してから介助する時間が、とれているか
- 「少し待ってください」と言う回数や、待ってもらう時間が減ったか
- 食事や入浴の場面で、急かさずに関われているか
- 何気ない会話をする時間があるか
- 職員が休憩をとれているか
最後の項目も、利用者のケアとつながっていると思います。疲れきった職員が、丁寧に関わり続けるのは難しいからです。
見守りの機器も同じです。通知が来てから駆けつけられることは、大切な助けになります。ただ、通知を減らすこと自体が目的になってしまえば、本人がなぜ動こうとしたのかを考える機会まで減ってしまうかもしれません。
現場の事情も、軽くはない
たしかに、人手が足りない中で、時間を生み出すことは切実な課題です。
記録や連絡の負担が減れば、職員は助かります。それを「楽をしている」と見るつもりは、私にはありません。
ただ、効率化で生まれた時間が、新しい業務や人員の削減で埋まってしまうなら、現場の実感はあまり変わらないでしょう。そうなると、「効率化しても余裕は生まれない」という疲れだけが残るかもしれません。
どの機器が合うのか、どの業務を見直すのかは、施設の状況、利用者の状態、職員の体制によって変わります。一律の答えはないと思います。

委員会で問い続けたいこと
半年後、委員会は「あって当たり前」のものになります。
だからこそ私は、その場でいつも一つのことを問いたいと思っています。この効率化で生まれた時間は、誰に返しているのか、と。
時間を生み出すことに慣れても、その時間を本人から遠ざけることには慣れたくありません。

注意書き
この記事は一般的な情報と筆者の経験をまとめたものです。
個別の対応は状態や背景によって異なるため、主治医や関係する専門職、
所属施設の手順に相談してください。


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