長生きの意味に迷いながら、特養の看護師として見つけた答え

医療と暮らし

社会保障費が増え続けている、というニュースを見るたびに、少し胸がざわつきます。

「そこまでして長生きすることは、本当に幸せなのか」

「年金のために生かされている人もいるのではないか」

そうした声を耳にすることもあります。正直に言えば、私自身もその問いに迷ったことがあります。特別養護老人ホーム(特養)で働く看護師として、自分は何のためにこの仕事をしているのか。答えが見えなくなった時期もありました。

迷った末に、私が見つけた答え

今の私は、こう考えています。

長生きの是非を決めるのは、私の役割ではありません。私の役割は、目の前の人の時間を「生かされているだけの時間」にしないことです。

特養の看護師として働く意義は、そこにあると思っています。

命を延ばすこと、延ばさないことを、看護師が一人で決めることはできません。どこまで治療を行うかは、本人の意思、医師の判断、家族の思い、多職種での話し合いの中で考えられるものです。

でも、その時間をどう過ごすかには、私たちが日々関わることができます。痛みやつらさに気づくこと。本人の声を聞こうとすること。好きだったことや、大切にしてきたことを知ろうとすること。それは、どんな選択の中でもできることだと考えています。

社会保障の話を、軽く扱いたくはない

社会保障費の問題は、現実の問題です。支える側の負担や、制度の続け方を考えることは、社会にとって必要な議論でしょう。

私自身も、その制度の中で働き、給料を得ています。だから、この話を他人事として聞き流すことはできません。

ただ、制度の議論と、目の前の一人の命の価値を測ることは、別のことだと思います。

費用の話をするとき、いつの間にか「この人の長生きには意味があるのか」という問いにすり替わってしまうことがあります。私は、そのすり替えには慣れたくありません。

特養で暮らす人は、制度の数字である前に、誰かの親であり、誰かの大切な人であり、何より本人自身の人生を生きている人です。

「生かされている」と「生きている」の間

「年金のために」という言葉を聞くと、私は少し考え込みます。

家族の事情は本当にさまざまです。経済的な事情を抱えながら、それでも面会に通い続ける人もいるでしょう。外から見ただけで、誰かの気持ちや動機を決めつけることはできません。

それでも、もし本人が「生かされている」と感じているとしたら。私はそこにこそ、看護師が関わる意味があると思うのです。

バイタルサイン(体温・血圧・脈拍など、体の状態を示す基本的な数値)は、命が保たれているかを知る大切な手がかりです。ただ、数値が安定していることは、本人がその日を穏やかに過ごせたかどうかまでは教えてくれません。

表情はどうだったか。好きな話題に反応があったか。何を嫌がり、何に安心したか。言葉で伝えにくい人ほど、記録の外側にあるものを見ていたいと思います。

特養の看護師だから見えるもの

特養の看護には、病院とは違う良さがあると私は感じています。

一つは、生活の場で長く関われることです。「いつもの様子」を知っているから、小さな変化に気づける。それは、短い関わりでは得にくいものです。

ほとんど言葉が出なくなった方が、昔好きだった歌を耳にして、口元をゆるめたように見えることがあります。記録に残すほどの出来事ではないかもしれません。でも私は、そういう瞬間に、この人は今日もここで生きているのだと感じます。

もう一つは、医療と暮らしの間に立てることです。医師に状態を伝えながら、介護職と一緒に「この人らしい一日」を考える。治療だけでも、生活だけでもない場所で働けることに、私はこの仕事の面白さを感じています。

そして、チームで支えられること。介護職の「なんとなくいつもと違う」という一言から、大切な変化に気づけることもあります。一人の看護師ではできないことが、チームならできる。それは、この仕事の希望だと思います。

それでも迷いは残る

本人の意思が分からないとき。本人と家族の思いが違うとき。どの選択が本人にとって良いのか、誰にも分からないときもあります。

そうした場面で、私に正解は出せません。それでも、本人の声を確かめる手間を省かないこと。分からないなら、分からないまま考え続けること。それだけは手放したくないのです。

私がこの仕事に希望を持てる理由

長生きが幸せかどうかは、人によって違うのだと思います。

だからこそ、その人がどう生きたいのかを、最後まで聞こうとする人が必要です。特養の看護師は、その役割を担える仕事だと、今の私は考えています。

命の長さを決めることはできなくても、その時間の過ごし方に関わることはできる。私はそこに、この仕事の意義と希望を見出しています。

注意書き

「この記事は一般的な情報と筆者の経験をまとめたものです。
個別の対応は状態や背景によって異なるため、主治医や関係する専門職、
所属施設の手順に相談してください。」

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