カスハラ対策が義務になった。職員を守ることと、認知症の方の尊厳を両立するには

看護師の働き方

強い言葉をぶつけられたり、介助中に腕を強くつかまれたりして、そのあと一人で気持ちを立て直す。介護の現場で働く人なら、そんな経験に覚えがあるかもしれません。

2026年10月1日、改正労働施策総合推進法が施行されました。これにより、介護事業者にもカスタマーハラスメント(カスハラ)対策が義務になったと報じられています。

カスハラとは、利用者や家族などの言動のうち、業務の性質などからみて社会通念上許される範囲を超え、職員の就業環境を害するものを指します。特養だけの話ではなく、介護事業者全体が対象です。

職員を守る仕組みが法律で求められるようになったことは、大きな一歩だと私は受け止めています。

そのうえで、特養で働く看護師として、どうしても書いておきたいことがあります。

私が言いたいこと

私が言いたいのは、二つです。

一つは、症状による行動とハラスメントを一律に線引きしないこと。もう一つは、職員を一人にしないことです。

この二つは、矛盾しないと思っています。むしろ、片方だけでは足りないのではないでしょうか。

報道によると、事業者には、職員を守る方針を明確にすること、相談窓口を設けること、事実関係を確認して再発防止を図ることなどが求められています。対処の例として、できるだけ職員を一人で対応させないことも挙げられているそうです。

同時に、障害を理由とする不当な差別的取り扱いの禁止や、合理的配慮の提供を踏まえた対応も求められていると伝えられています。

職員を守ることと、利用者の権利を守ること。どちらも制度の中に書かれている。私はそこに希望を感じます。

「症状」と「ハラスメント」のあいだ

認知症の方の中には、強い不安や混乱から、大きな声を出したり、手が出てしまったりする方がいます。

こうした行動は、BPSD(認知症の行動・心理症状。不安、興奮、妄想などとして表れることがあります)として理解されることがあります。痛み、便秘、眠れなさ、環境の変化、ケアのタイミングなどが関わっている可能性もあります。

もちろん、ここで個別の原因を言い切ることはできません。同じように見える行動でも、背景は人によって違うからです。

だからこそ私は、行動だけを見て「この人はハラスメントをする人だ」と分類することには、とても慎重でありたいと思っています。

一度そう名づけてしまうと、ケアの入口が「警戒」になります。声をかける前から身構え、説明を省き、手早く済ませようとする。そうなると、本人の不安はさらに大きくなるかもしれません。

一方で、「認知症だから仕方ない」と言って、職員がつらさを飲み込み続けることにも、私は賛成できません。

症状だから我慢する、でもない。ハラスメントだから遠ざける、でもない。そのあいだを、チームで考える余地を残しておきたいのです。

記録から見落としたくないこと

こうした場面のあと、記録には「大声あり」「介助拒否あり」と書かれることがあります。

事実を残すことは大切です。けれど、その一行だけでは分からないことがたくさんあります。

  • その前に何があったのか
  • どんな声かけや介助のときだったのか
  • 痛みや眠気、排泄の様子はどうだったか
  • 時間帯や場所、周りの音はどうだったか
  • 本人は何を嫌がっていたように見えたか

こうした観察は、本人を理解する手がかりになるだけではありません。職員の対応を「その人の力量の問題」にせず、チームで振り返るための材料にもなると思います。

そしてもう一つ、記録に残りにくいものがあります。対応した職員の気持ちです。

怖かった。悲しかった。自分のやり方が悪かったのかもしれない。そうした思いを抱えたまま次の仕事に向かうことが、当たり前になってはいけないと私は思います。

家族への対応で考えたいこと

家族からの強い言葉に、職員が深く傷つくこともあります。

ただ、その言葉の奥に、大切な人を施設に託している心配や、説明が足りなかったことへの戸惑いがある場合もあるでしょう。

すべてを受け止める必要はありません。暴言や脅しのような言動から職員を守ることは、施設の役割だと思います。

それでも、家族を最初から「要注意の人」として見ることはしたくありません。説明の機会を増やすことで変わる関係もあるはずだからです。

難しさと、例外

とはいえ、きれいごとだけでは済みません。

本人に悪意がなくても、職員がけがをする危険がある場面はあります。安全を確保するために、距離をとったり、対応する人を替えたりする判断が必要なこともあるでしょう。

どこまでが症状への理解で、どこからが職員を守る対応なのか。その判断は、本人の状態、医師や多職種の検討、施設の手順によって変わります。私一人の考えで決められることではありません。

報道によれば、各サービスの運営基準にもカスハラ対策を盛り込む方向で検討が進んでおり、審議会では認知症などの特性に配慮した制度設計を求める声も上がっているそうです。中身は、これから決まっていきます。

私が守りたいこと

制度ができても、現場で向き合うのは一人ひとりの職員と、一人ひとりの利用者です。

私は、つらい場面を職員一人に抱えさせない現場でありたいと思います。そして、守る仕組みが、本人を遠ざけるための理由にならないようにしたいとも思います。

職員を守ることと、本人の尊厳を守ること。私は、そのどちらも手放したくありません。

注意書き

この記事は一般的な情報と筆者の経験をまとめたものです。
個別の対応は状態や背景によって異なるため、主治医や関係する専門職、
所属施設の手順に相談してください。

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