GLP-1と食品株――食費の減少だけで企業の将来は決められない

医療と暮らし

薬によって食欲が変わると、スーパーや飲食店で使うお金まで変わります。この変化は、食品企業を見るうえでも気になる動きです。

米国の研究では、GLP-1関連薬を使い始めた人がいる世帯で、開始後6か月間の食料品支出が平均5.3%減りました。ファストフード店やコーヒーショップなどでの支出も約8%減っています(Journal of Marketing Research掲載論文の要旨)。hristakeva

ただ、この数字から「食品企業には一律に逆風」と結論づけるのは早いと私は考えます。何を買わなくなったのか。変化は続くのか。その食品を売る企業はどう対応するのか。投資の判断では、そこまで分けて見たいと思います。

研究は誰の何を測ったのか

GLP-1受容体作動薬は、血糖の調節にかかわるホルモンの働きをまねる薬で、食欲を抑える作用もあります。日本では、同じ成分でも病気によって製品が分かれています。

  • セマグルチド:2型糖尿病の薬は「オゼンピック」、肥満症の薬は「ウゴービ」です。
  • チルゼパチド:GLP-1とGIPという2つのホルモンの受容体に作用する成分です。2型糖尿病の薬は「マンジャロ」、肥満症の薬は「ゼップバウンド」です(田辺ファーマ)。

ウゴービとゼップバウンドが保険で使えるのは、肥満症と診断され、高血圧、脂質異常症、2型糖尿病のいずれかがあり、BMIなどの条件を満たす場合に限られます(PMDA掲載の日本肥満学会資料)。pmda.go

今回の研究は、米国の約15万世帯の購買パネル(世帯の買い物記録を継続して集める仕組み)の取引記録と、薬の利用状況についての調査を結びつけたものです。主要な分析対象は、利用を始めた2,602世帯です。世帯属性、糖尿病の有無、利用前の買い物の傾向が似た非利用世帯と比較しています(研究者による解説、Economics Observatory、2026年10月14日)。15万世帯すべてが薬を使ったわけではありません。economicsobservatory

研究では、例としてオゼンピックやウゴービが挙げられています。ただし、結果は薬ごとには分けられていません(コーネル大学)。また、測っているのは利用者本人ではなく、利用者がいる世帯の支出です。買った量と実際に食べた量も同じではありません。news.cornell

大きく減ったのはスナックや甘い食品

最初の半年で支出の減少が大きかったのは、次の食品です。economicsobservatory

  • ポテトチップスなどの塩味スナック:10%超
  • 甘い菓子パン・焼き菓子類:8.8%
  • ビスケット・クッキー類:6.5%

肉、卵、パン、生鮮野菜にも減少が見られました。間食だけが減ったのではなく、食品の購入が幅広く減っています。

一方で、主要40分類のうち支出が増えたと推計されたのは、ヨーグルト、生鮮果物、栄養バー、肉系スナックの4分類だけでした。このうち統計的に有意な増加、つまり偶然のばらつきだけでは説明しにくい増加は、ヨーグルトの3.6%だけです(同上)。economicsobservatory

ですから、「健康的な食品が全面的に売れるようになった」とまでは言えません。研究が強く示しているのは、特定の商品への大きな乗り換えではなく、全体として購入が減る動きです。伸びそうな食品を探すときほど、期待と確認できた事実を分けたいと私は思います。

使い続けるかどうかで、変化も違う

開始後7〜12か月では、食料品支出の減少幅は約4%となり、最初の半年より小さくなりました。観察期間中には、約34%の世帯で利用が中止されています。中止した世帯では、中止から6か月以内に食料品支出が利用前に近い水準へ戻りました(Economics Observatory)。中止後は、菓子やチョコレートへの支出が増え、買い物の中身が利用前よりわずかに健康的でなくなったとも報告されています(コーネル大学)。

つまり、利用者が一度増えれば、食品需要がその分ずっと減り続けるとは考えにくいのです。利用の広がりだけでなく、続ける人とやめる人の動きも関係します。

ただし、続けるかやめるかは無作為に決まったものではありません。研究者自身も、減量への意欲のように見えない要因の影響は完全には除けないとしています。中期の結果や中止後の結果は、慎重に解釈すべきだと述べています。economicsobservatory

食品株では「何を売っている会社か」を見る

投資の視点で私が大切にしたいのは、内訳です。研究者も、甘い焼き菓子などを売る企業は、幅広い食品を扱う企業より、分類ごとの減少の影響を受けやすいと指摘しています。一方で、これは分類ごとの変化から見た影響の受けやすさの話であり、個別企業への影響を推計したものではないとも明記しています。economicsobservatory

企業を見るときに、私が確かめたいのは次の点です。

  • 米国市場への依存度はどの程度か
  • 支出が減った食品分類に、売上が偏っていないか
  • 販売数量に変化が表れているか
  • 少量の商品や商品構成の見直しに、どう対応しているか

食品業界では、たんぱく質や食物繊維を増やした商品や、少量の商品の開発が進んでいます。ただ、それが市場の拡大につながるのか、企業間で支出が移るだけなのかは、まだ分からないとされています。economicsobservatory

食品需要の変化から、企業の利益や株価までを一直線につなげたくはありません。一つの研究を売買の根拠にするのではなく、決算などで実際の変化を確かめたいと考えています。

米国の結果を日本の食卓へ当てはめない

この研究は、米国で利用が急速に広がっていた時期のデータです。研究者は、他の国では結果が異なる可能性があり、長期的に食品支出がどうなるかも分からないとしています。economicsobservatory

日本ではマンジャロの名前を目にする機会が増えていますが、承認されているのは2型糖尿病の治療です。厚生労働省は、美容・痩身目的での使用について、安全性と有効性は確認されていないと注意を呼びかけています(厚生労働省)。肥満症の薬を保険で使える人の条件も限られているため、「日本でも食費が5.3%減る」とは言えません。

また、これは食品の購入額を調べた研究です。薬代を含めて家計全体が楽になることや、栄養状態がよくなることを示した数字ではありません。

GLP-1関連薬の広がりは、食品企業を見るときの新しい確認項目になりそうです。ただ、私が追いたいのは「食品が売れなくなる」という大まかな話ではありません。どの商品が選ばれなくなり、何が残るのか。その変化が各社の販売数量や商品構成にどう表れるのかを、確かめていきたいと思います。

注意書き

本記事は一般的な情報提供を目的としたもので、個別の診断や治療に代わるものではありません。GLP-1関連薬は、承認された病気に対して、医師の判断のもとで使う処方薬です。食費を減らす目的や、美容・痩身の目的で使う薬ではありません。治療や服薬については、医師や薬剤師にご相談ください。自己判断で薬を始めたり、やめたり、量を変えたりしないでください。また、本記事は特定の金融商品や銘柄の売買を勧めるものではありません。投資には元本割れの可能性があり、投資判断はご自身の状況に応じて行ってください。

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